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シティポップ再発見-竹内まりやからNight Tempoまで、世界が愛する日本の音

白波瀬 まどか

2026.04.20 Update

YouTubeのおすすめ欄に、聴いたことのない日本語の曲が突然現れたことはないだろうか。

ネオンカラーのアニメ風イラストがサムネイルに使われた、1980年代の日本のポップミュージック。
再生してみると、どこか懐かしくて、でも不思議と新しい。
コメント欄には英語、スペイン語、ポルトガル語、韓国語、タイ語——世界中の言語で「この曲が大好き」と書かれている。

それが「シティポップ」だ。

1970年代後半から80年代にかけての日本で生まれたこの音楽が、40年以上の時を経て世界的なブームを巻き起こしている。
TikTokで、YouTubeで、Spotifyで。
なぜ今、遠い異国の古い音楽がこれほど人の心を掴むのか。
その理由を、音楽そのものの魅力から紐解いていきたい。

シティポップとは何か

シティポップに厳密な定義はない。
それが、この音楽の面白いところでもある。

ざっくり言えば、1970年代後半〜80年代の日本で生まれた都会的なポップミュージックの総称。
AOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)、ソウル、ファンク、フュージョンなど欧米のブラックミュージックの影響を色濃く受けながら、日本語の歌詞と独特のメロディセンスが融合した音楽だ。

キーワードは「洗練」と「都会」。
バブル前夜の日本が持っていた、未来への楽観と夜の街のきらめき。
その空気がそのまま音になっている。
プロダクションの質が異常に高いのも特徴で、当時の日本のスタジオミュージシャンたちは世界トップクラスの技術を持っていた。

起源は、山下達郎が在籍したシュガー・ベイブの『SONGS』(1975年)に求められることが多い。
ここからシティポップの系譜が始まったとされている。

ブームはどこから始まったのか

シティポップが海外で注目され始めたきっかけは、YouTubeのアルゴリズムだった。

2017年頃、竹内まりやの「プラスティック・ラブ」(1984年)の非公式アップロード動画がYouTubeのおすすめに突然大量表示されるようになり、再生回数が4,000万回を突破。
日本人リスナーですら「この曲、知らなかった」という声が多かった。

火付け役の一人が、韓国人プロデューサー兼DJのNight Tempo。
彼は80年代の日本のポップスをサンプリングし、「フューチャー・ファンク」と呼ばれるダンスミュージックに再構築した。
竹内まりやのリエディットがネットでバイラルヒットしたことで、オリジナル曲にも注目が集まるという逆輸入が起きた。

2020年には松原みきの「真夜中のドア〜Stay With Me」(1979年)がSpotifyグローバルバイラルチャートで18日連続1位を記録。
40年以上前の曲がグローバルチャートを制するという前代未聞の出来事だった。
悲しいことに松原みき本人はすでに2004年に亡くなっており、この反響を知ることはなかった。
だからこそ、彼女の音楽がこうして新しいリスナーに届いていることが嬉しい。

まず聴くべきシティポップの名盤5枚

シティポップの世界は広い。でも、まずはこの5枚を聴けば全体の輪郭が掴める。

① 山下達郎『FOR YOU』(1982年)

シティポップの最高峰。全曲捨て曲なし。
「SPARKLE」のギターカッティングを聴いた瞬間、夏の海沿いのドライブが脳内に映る。
中古レコード市場でも常に高値で取引される、シティポップの聖典。

② 竹内まりや『Variety』(1984年)

「プラスティック・ラブ」を収録した名盤。
山下達郎プロデュースによる洗練されたサウンドと、竹内まりやの温かいボーカルの相性が完璧。
「もう一度」「マージービートで唄わせて」など名曲が並ぶ。

③ 大貫妙子『SUNSHOWER』(1977年)

坂本龍一がアレンジを手がけた、ボサノバとジャズとポップスが溶け合う宝石のような作品。
海外ではシティポップの入口として最も人気が高いアルバムの一つ。
ロングセラーが続き再発売を繰り返している。

④ 杏里『Timely!!』(1983年)

角松敏生プロデュース。
「悲しみがとまらない」は当時のヒット曲だが、アルバム全体の完成度が圧倒的。
ファンキーなベースラインとシンセの煌めきが80年代の東京の夜景そのもの。

⑤ 松原みき『Pocket Park』(1980年)

「真夜中のドア」を収録した唯一のオリジナルアルバム。
松原みきの声は、夜の空気に溶けていくような独特の浮遊感がある。
アルバム全体を通して聴くと、21歳のシンガーが持っていた音楽的才能の大きさに驚かされる。

Night Tempoと「昭和グルーヴ」——現代のシティポップ

シティポップは「過去の音楽」だけではない。現代にも脈々と受け継がれている。

その象徴がNight Tempo。韓国出身のプロデューサーで、80年代の日本のポップスを「昭和グルーヴ」シリーズとして現代のダンスミュージックにリエディットしている。
Wink、杏里、1986オメガトライブ、菊池桃子、小泉今日子——昭和のアイドルからニューミュージックまで、20タイトル以上をリリース。
角松敏生とダフト・パンクを敬愛し、昭和カセットテープのコレクターでもあるという筋金入りだ。

Night Tempoの功績は、単にリミックスを作ったことではない。
80年代の日本のポップスに新しい文脈を与え、若い世代や海外のリスナーが「元ネタ」を辿るきっかけを作ったことだ。
Night Tempoを入口に山下達郎や竹内まりやに辿り着いた海外リスナーは、おそらく数百万人規模で存在する。

シティポップが世界に響く理由

なぜ40年前の日本語の音楽が、言葉の壁を超えて世界中で愛されるのか。
いくつかの理由が考えられる。

第一に、プロダクションの普遍性
シティポップのサウンドは、AORやソウル、ファンクという世界共通の音楽言語で作られている。
歌詞がわからなくても、音そのものが心地よい。

第二に、「ノスタルジア」の力
80年代の音は、リアルタイムを知らない世代にとってはむしろ新鮮に聞こえる。
レトロでありながらフューチャリスティック——その矛盾が魅力になっている。

第三に、アルゴリズムとの相性
サビまでの展開が速く、メロディが印象的なシティポップは、YouTubeやTikTokのショートフォーマットとの相性が良い。
アルゴリズムが「次に聴くべき曲」として推薦しやすい構造を持っている。

そして最も大きな理由は、単純に音楽として素晴らしいから
どれだけアルゴリズムが優秀でも、聴いたときに「いい曲だ」と思わなければリピートされない。
シティポップが40年経っても聴かれ続けているのは、楽曲そのものの力に他ならない。

シティポップの血を引く現代のアーティスト

シティポップの影響は、現代のアーティストにも色濃く受け継がれている。

藤井 風のピアノワークにはシティポップ的なコード感があるし、Vaundyの楽曲にはAOR的な洗練が見える。
海外ではThe Weekndが80年代のシンセサウンドを大胆に取り入れたアルバム『After Hours』を発表し、Dua Lipaの『Future Nostalgia』も明らかに80年代のディスコ〜ファンクを参照している。

シティポップは「終わった音楽」ではなく、今も世界中のポップミュージックの中に生きている。
過去を聴くことは、現在を聴くことでもある。

最初の1曲は「プラスティック・ラブ」から

ここまで読んで、もしまだシティポップを聴いたことがないなら、まずは竹内まりやの「プラスティック・ラブ」を再生してみてほしい。

イントロのシンセが鳴り始めた瞬間、あなたは1984年の東京の夜に連れていかれる。
ネオンが反射する雨上がりの路面、タクシーの後部座席、ラジオから流れてくる甘いメロディ——そんな風景が、音の中に見えてくるはず。

40年前の音楽が、今夜のあなたの新しい「好き」になる。シティポップには、そういう力がある。

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