チャカ・カーンはなぜ「ファンクの女王」なのか──50年間、声で時代を塗り替えてきた人
この記事でわかること
- 01.1970年代のRufusから2019年の最新作まで、50年以上にわたってR&B/ファンクの最前線に立ち続けるチャカ・カーンの本質に迫る。
- 02.Stevie Wonderが書いた「Tell Me Something Good」から、Princeの「I Feel for You」まで──時代を超えた名曲の背景とチャカの声の圧倒的な力を解説する。
- 03.R&B、ファンク、ジャズ、ポップ──ジャンルを超えて輝き続けた「ファンクの女王」の入門ガイド。
「チャカ・カーンを知っているか?」
Hip-Hop / R&B担当として、この名前を知らない人に出会うたびに「もったいない」と思う。
チャカ・カーンは単なる「昔のR&Bシンガー」ではない。
1970年代から今日まで、ポップミュージックの流れを何度も変えてきた人だ。
Whitney Houston、Beyoncé、Mariah Carey──現代のR&Bディーヴァたちが「影響を受けた」と口を揃える声の持ち主。それがチャカ・カーンだ。
チャカ・カーンとは何者か
本名イベット・マリー・スティーヴンス。1953年3月23日、イリノイ州シカゴ生まれ。
13歳のとき、神父からアフリカ名「チャカ」を授かり、最初の夫の名字「カーン」を組み合わせてステージネームが生まれた。
1972年にシカゴのファンクバンド「Rufus」に加入し、その圧倒的な歌唱力でバンドの中心的存在となった。
フォーク、ロック、ソウル、ファンクを横断するRufusの音楽に、チャカの声が乗ることで唯一無二のサウンドが生まれた。
Rufus時代──Stevie Wonderが書いた曲でブレイク
Rufusのブレイクは、Stevie Wonderとの出会いで訪れた。
1974年、Wonderはチャカのために「Tell Me Something Good」を書き下ろした。
ゴツゴツしたクラヴィネットのリフと、チャカの野性的なボーカルが絡み合うこの曲は、Billboard Hot 100で3位を記録し、グラミー賞最優秀R&BグループパフォーマンスをRufusにもたらした。
続く「Sweet Thing」(1975年)はR&Bチャートで1位を獲得。
チャカ自身が共同作曲したこの曲は、彼女が単なる「歌う人」ではなく「音楽を作る人」であることを示した。
Rufusとの活動と並行しながら、チャカは1978年にワーナー・ブラザーズ・レコードとソロ契約を結ぶ。
ソロデビュー──「I’m Every Woman」という宣言
1978年10月、チャカのソロデビューアルバム『Chaka』がリリースされた。
先行シングル「I’m Every Woman」はAshford & Simpsonによって書かれたディスコアンセムで、R&Bチャートで1位を獲得。
「I’m every woman / It’s all in me」という歌詞は、女性の強さと多様性を高らかに宣言するものだった。
この曲は後に1992年、Whitney Houstonが映画『ボディガード』のサウンドトラックでカバーし、再び世界的なヒットとなる。
チャカの楽曲が次の世代に受け継がれた瞬間だった。
『I Feel for You』──Prince×Stevie Wonder×Grandmaster Melle Melの奇跡
1984年10月にリリースされたソロ5枚目のアルバム『I Feel for You』は、チャカのキャリア最大の商業的成功をもたらした。
タイトル曲「I Feel for You」はPrinceが1979年に自身のセルフタイトルアルバムに収録した楽曲のカバーだ。
チャカがこの曲に惚れ込み、ずっとカバーしたいと思っていたところに実現したレコーディングには、Stevie Wonderがハーモニカで参加し、Grandmaster Melle Melがラップを担当した。
「チャカ・チャカ・チャカ・チャカ・カーン」というMelle Melの名前連呼のイントロは、1984年の夏にラジオから流れ出した瞬間から、ポップミュージックの風景を変えた。
R&BとHip-Hopが融合する予兆がここにある。
プロデューサーArif MardinとJohn Robieの最先端のシンセサウンドも加わり、この曲は時代の先を行く作品となった。
同アルバム収録の「Through the Fire」は、スローバラードとしてチャカの感情表現の深さを見せた。
こちらもカニエ・ウェストが2004年の「Through the Wire」でサンプリングしたことで、Hip-Hopファンにも広く知られることとなった。
チャカ・カーンの声──なぜ50年間「女王」であり続けるのか
チャカ・カーンの声について語るとき、「パワフル」という言葉だけでは足りない。
チャカの声の特徴は「自由さ」にある。
クラシックなソウルの発声技術を持ちながら、ジャズのインプロビゼーション(即興演奏)的な自由さで声を操る。
同じ曲を毎回違うニュアンスで歌い、その瞬間の感情を直接音に変換する。
これはトレーニングだけでは習得できない、天賦の才能だ。
Whitney HoustonもBeyoncéも、チャカのこの「声の自由さ」に影響を受けたと語っている。
現代のR&Bシンガーが当たり前のように使うメリスマ(一つの音節に複数の音符を乗せる技法)の多くは、チャカが1970年代に確立したものだ。
現代への接続──Hip-HopとR&Bに刻まれたチャカの影響
チャカ・カーンの音楽はサンプリングという形でHip-Hopに生き続けている。
カニエ・ウェストの「Through the Wire」(2004年)は「Through the Fire」のサンプリング。
メアリー・J・ブライジ、ケリー・ローランド、そしてBeyoncéも、チャカのフレーズを自身の楽曲に組み込んできた。
MUSINAで特集したWu-Tang Clanのメンバーも、チャカの音楽世界から影響を受けたR&Bの系譜の上に立っている。
「Tell Me Something Good」のグルーヴは、East Coast Hip-HopのビートDNAに刻まれている。
まず聴くならこの3枚
Rufus featuring Chaka Khan『Rags to Rufus』(1974年)
「Tell Me Something Good」「You Got the Love」収録。
チャカとRufusの最初のブレイクを体感できる一枚。ファンク・ソウルの原点として必聴。
Chaka Khan『Chaka』(1978年)
ソロデビューアルバム。
「I’m Every Woman」収録。ディスコとソウルが融合した時代の空気を、チャカの声で体感できる。
Chaka Khan『I Feel for You』(1984年)
「I Feel for You」「Through the Fire」収録のキャリア最大の商業的成功作。
R&BとHip-Hopが交差する瞬間がここにある。
ジャンルをまたいで届く声
チャカ・カーンの音楽はR&Bだけに収まらない。
ファンク、ジャズ、ディスコ、ポップ──あらゆる場所でその声は機能する。
MUSINAを読んでいるロックファンも、K-POPファンも、Electronicファンも、チャカの声を一度聴けば「これは別格だ」とわかるはずだ。
半世紀にわたって「ファンクの女王」の座に君臨し続けることの意味が、その声の中に全部詰まっている。