くるりはなぜ変わり続けるのか──「東京」から「感覚は道標」まで、25年の旅を読み解く
この記事でわかること
- 01.1998年のメジャーデビューから25年以上、アルバムごとに音楽性を更新し続けるくるりの核心に迫る。
- 02.「東京」「ワンダーフォーゲル」「ばらの花」から「感覚は道標」まで、主要アルバムの変遷を軸に岸田繁という音楽家の本質を読み解く。
- 03.くるりをまだ聴いたことがない人への入門ガイドと考察。
くるりを一言で説明しようとすると、必ず行き詰まる。
ロックバンド、とは言えるが、それだけでは足りない。
フォーク、エレクトロニカ、オーケストラ、ワールドミュージック──アルバムごとに音楽性が変わりすぎて、ジャンルで括ることができない。
1998年のメジャーデビューから25年以上。
1996年、立命館大学の音楽サークルのメンバーにより結成されたくるりは、岸田繁(Vo&G)、佐藤征史(B)、森信行(DS)のスリーピースバンドとして始まった。
そのバンドが今も現役で、新作を出すたびに「これがくるりか」と驚かせる。
今回はくるりというバンドの「変わり続ける理由」を、主要アルバムの変遷を軸に読み解いていく。
くるりをまだ聴いたことがない人への入門としても、長年のファンが改めて整理する機会としても使ってほしい。
デビュー曲「東京」──上京という普遍的な感情
1998年10月、マキシシングル「東京」でメジャーデビューしたくるり。
この曲は今も、くるりの代名詞として語り継がれている。
「東京」が持つ力は、歌詞の普遍性にある。
上京した若者が感じる孤独と期待、街の冷たさと自分の小ささ。
それをですます調の素朴な言葉で歌うことで、聴いた人それぞれの「あの頃」が召喚される。
MUSINAの記事でも取り上げたが、雨の日の通勤電車でこの曲を聴くと、東京という街の感触がリアルに蘇る。
「東京」の重要性は、この曲がくるりというバンドの「入口」として今も機能していることだ。
ロックを聴き始めた人が、この曲から入ってくるりの世界に引き込まれる。
25年以上経った今も、その力は衰えていない。
初期三部作──くるりという「原型」の形成
くるりの初期三部作、『さよならストレンジャー』(1999年)、『図鑑』(2000年)、『TEAM ROCK』(2001年)は、それぞれ全く異なる音楽的方向性を持ちながら、「くるりとはこういうバンドだ」という輪郭を形成した。
メジャーファーストアルバム『さよならストレンジャー』は、フォーク色を感じるロックテイストに仕上がっている。
メジャーファーストアルバムでありながら非常に完成度が高く、良い意味で粗削りな部分も残った作品だ。
「東京」「虹」といった初期の名曲が収録されており、くるりの「日本語ロック」としての原点がここにある。
2枚目の『図鑑』はジム・オルークを共同プロデューサーとして迎えて制作された。
「マーチ」や「青い空」などの激しいギターロックが多いのが特徴だが、「ピアノガール」や「屏風浦」などのように穏やかな雰囲気の曲もある。
前作の素朴さから一転、実験性と激しさが前に出た作品だ。
『TEAM ROCK』──「ばらの花」と「ワンダーフォーゲル」の奇跡
くるりの3枚目にして、多くのファンが「最高傑作」と呼ぶアルバムが2001年の『TEAM ROCK』だ。
シーケンサーによる4つ打ちのリズム、電子音の大胆な導入など、目に見えてバンドの裾野の広さを提示してみせた本作。
突然のサンプリング風トラックにスクラッチ、そしてラップまでも披露した”TEAM ROCK”に始まり、その後の彼らの代表曲ともなる、性急なイーヴンキックに多幸感あふれる”ワンダーフォーゲル”、スーパーカーのフルカワミキを迎え彼らの代表作ともなった”ばらの花”に描かれた風景の見晴らしの良さこそが、この3作目のアルバムを特徴づける要素だ。
「ばらの花」は、くるりのディスコグラフィーの中で最も多くの人に愛されてきた曲のひとつだ。
フルカワミキ(スーパーカー)のボーカルが加わることで生まれる透明感と儚さ、そして岸田繁の詩の情景描写──「なんとなく僕が遠くなって」という一節が、聴いた瞬間に何かを呼び起こす。
「ワンダーフォーゲル」の4つ打ちの高揚感と、「ばらの花」の透明感。
この2曲が同じアルバムに収録されていること自体が、くるりというバンドの幅の広さを示している。
変化の加速──『THE WORLD IS MINE』から『NIKKI』へ
『TEAM ROCK』の成功後、くるりは更なる変化の道を進む。
4thアルバム『THE WORLD IS MINE』(2002年)は「ワールズエンド・スーパーノヴァ」を収録し、くるり最大のヒット曲を生んだ。
しかしその後もバンドは安定した路線に留まらず、アメリカのローリング・ストーンズ的なオルタナカントリー路線(『アンテナ』、2004年)、より深い内省へ向かう作品(『NIKKI』、2005年)と、次々と異なる音楽的挑戦を続けた。
この時期、メンバーチェンジも相次いだ。ドラマーの森がバンドを脱退し、その後クリストファー・マグワイアというアメリカ人ドラマーが正式加入するなど、バンドの編成自体も変わり続けた。
しかしそのたびに「くるりらしさ」は失われなかった。
それは岸田繁という音楽家の個性が、バンドの核として機能し続けているからだと思う。
岸田繁という音楽家──変化の源泉
くるりがアルバムごとに変わり続ける理由は、フロントマン・岸田繁の音楽的好奇心の広さと深さにある。
岸田繁はくるりの活動と並行して、クラシック音楽の作曲家としても活動している。
交響曲の作曲・初演、映画音楽の制作(「ジョゼと虎と魚たち」、「リラックマとカオルさん」など)──ロックバンドのフロントマンとしての顔だけでは到底語りきれない音楽家だ。
この「クラシックからロック、フォーク、ワールドミュージックまで」という好奇心の広さが、くるりというバンドの音楽的変化の源泉になっている。
岸田繁が「今聴きたい音楽」が、そのままくるりのアルバムになる。
だからアルバムごとに違う音楽になる。それは「迷い」ではなく「一貫した姿勢」だ。
『ソングライン』と『天才の愛』──深化する現在
2018年の12作目のフルアルバム『ソングライン』は、ビートルズの革新性、はっぴいえんどが切り拓いた日本語ロックの味わい、歌謡曲のノスタルジックな響き、クラシック音楽の優美さなど、これまで辿ってきたサウンドを丹念に織り込んだアレンジが秀逸な作品だ。
あらゆる時代、あらゆる場所で生まれた音楽のエッセンスがさりげなく混ざり合い、深みのある響きを生み出している。
2021年の『天才の愛』では、さらにポップの可能性の極北へと向かった。
「潮風のアリア」「益荒男さん」「I Love You」──多幸感と実験性が高い次元で共存した、くるりのディスコグラフィーの中でも異色の一枚だ。
『感覚は道標』(2023年)──原点回帰にして最高傑作
2023年10月にリリースされた14枚目のアルバム『感覚は道標』は、くるりの現時点での最高傑作として多くのリスナーと批評家から評価されている。
結成時のメンバー森信行を迎えたトリオで、今一度「くるりとは何か」を問い直す作業として制作された本作。
ジャムセッションから発展させた楽曲も多く、3人の内に蓄積された音楽的嗜好や経験、そして3人の間だからこそ生じる化学反応が自然と曲に染み出している。
とりわけ、確かな技巧とやぶれかぶれの熱量とが合わさり爆ぜながら疾走する”馬鹿な脳”と、無条件に脳と腰を揺さぶってやまないダンスナンバー”お化けのピーナッツ”は大名曲。
自然体にして最強の「くるりplaysくるり」だ。
25年以上かけて蓄積した音楽的経験が、原点の3人というシンプルな編成に戻ることで爆発した。
「変わり続けてきたからこそ、原点に戻ったとき最強になる」──くるりというバンドの本質が、このアルバムに凝縮されている。
まず聴くならこの3枚──入門ガイド
くるりをまだ聴いたことがない人に、入口として最適な3枚を選んだ。
『TEAM ROCK』(2001年)
くるり入門として最もバランスが良い一枚。
「ばらの花」「ワンダーフォーゲル」「リバー」と、くるりの代表曲が揃っている。
この一枚を聴けば「くるりとはどういうバンドか」の輪郭が掴める。
『さよならストレンジャー』(1999年)
「東京」「虹」収録のデビューアルバム。
『TEAM ROCK』を気に入ったら、ここに遡ってほしい。
粗削りの中にある瑞々しさが、また全く違う感触で刺さる。
『感覚は道標』(2023年)
くるりの25年間の集大成を、今この瞬間に聴ける。
「お化けのピーナッツ」のグルーヴは、一度聴いたら忘れられない。
くるりが変わり続ける理由──まとめ
くるりがアルバムごとに変わり続けるのは、「売れるための計算」でも「迷い」でもない。
岸田繁という音楽家が「今聴きたい音楽、今作りたい音楽」を正直に作り続けているからだ。
その姿勢は、MUSINAが大切にしている「ジャンルをまたいで、まだ知らない”好き”へ」という感覚と重なる。
くるりを聴くことは、一つのバンドを聴くことでありながら、ロック、フォーク、エレクトロ、クラシック、ワールドミュージックを横断する旅でもある。
まだ聴いたことがない人は、ぜひ「東京」から始めてほしい。
きっと、止まれなくなる。
| アルバム | リリース年 | 代表曲 | 一言 |
|---|---|---|---|
| さよならストレンジャー | 1999年 | 東京、虹 | デビュー作、日本語ロックの原点 |
| 図鑑 | 2000年 | 青い空、マーチ | 実験性と激しさが前に出た2作目 |
| TEAM ROCK | 2001年 | ばらの花、ワンダーフォーゲル | 入門に最適、最も愛されるアルバム |
| THE WORLD IS MINE | 2002年 | ワールズエンド・スーパーノヴァ | 最大のヒット曲を生んだ4作目 |
| アンテナ | 2004年 | ロックンロール、HOW TO GO | シンプルなバンドサウンドへの回帰 |
| NIKKI | 2005年 | Baby I Love You、JUBILEE | より内省的・実験的な方向へ |
| ワルツを踊れ Tanz Walzer | 2007年 | 言葉はさんかく こころは四角 | クラシックの影響を取り込んだ意欲作 |
| 魂のゆくえ | 2009年 | さよならリグレット、奇跡 | 落ち着いた叙情性が際立つ一枚 |
| 言葉にならない、笑顔を見せてくれよ | 2010年 | There is (always light) | ポップな間口の広さが特徴 |
| 坩堝の電圧(るつぼのぼるつ) | 2012年 | everybody feels the same | ダンスミュージック色が強い実験作 |
| THE PIER | 2014年 | loveless、Liberty & Gravity | 多国籍サウンドを取り込んだ意欲作 |
| ソングライン | 2018年 | ソングライン、その線は水平線 | 音楽的集大成のような深みある一枚 |
| 天才の愛 | 2021年 | 潮風のアリア、I Love You | ポップの極北へ向かった異色作 |
| 感覚は道標 | 2023年 | お化けのピーナッツ、馬鹿な脳 | 原点回帰にして現時点での最高傑作 |
| 儚くも美しき12の変奏 | 2026年 | ワンダリング、Regulus、瀬戸の内 | SPEEDSTAR離脱後初作、12曲12様の新境地 |