クラブに行きたい人へ:エレクトロニックミュージック入門
この記事でわかること
- 01.テクノ、ハウス、トランス、EDM——違いがわかる入門ガイド
- 02.BPM・構造・発祥地から読み解く電子音楽の地図
- 03.自宅で聴けるおすすめアーティストとプレイリストも紹介
深夜2時、薄暗いフロア。
低く唸るキックドラム。
天井から降り注ぐストロボ。
——そんな情景をイメージすると、エレクトロニックミュージックはちょっと敷居が高く感じるかもしれない。
でも、この音楽は別にクラブでしか聴けないわけじゃない。
通勤電車の中で、深夜の自室で、ドライブの助手席で。
イヤホン一つあれば、あなたは世界中のどんなダンスフロアにも瞬間移動できる。
問題は、ジャンルが多すぎること。
テクノ、ハウス、トランス、ドラムンベース、ダブステップ、トラップ、EDM——名前は聞いたことがあっても、違いがわからない人は多いはずだ。
この記事では、DJとして夜の現場に立ち続けてきた視点から、エレクトロニックミュージックの主要ジャンルを「発祥地」「BPM」「音の質感」という3つの軸で整理していく。
読み終わる頃には、あなたは自分の好きな音を見つけるための地図を手にしているはずだ。
まず覚えるべき2つのジャンル:ハウスとテクノ
すべてのエレクトロニックミュージックは、この2つから派生していると言っても過言じゃない。
ハウスとテクノ。似ているようで、まったく違う音楽だ。
ハウス:シカゴで生まれた人間味のある音
発祥:1980年代、アメリカ・シカゴ。
BPM:115〜130前後。
誕生の地:ゲイクラブ「Warehouse(ウェアハウス)」。ここから「House」の名がついた。
ハウスの特徴は、ディスコとソウルの遺伝子を受け継いだ「人間味」。
四つ打ちの規則正しいキックの上に、ピアノのリフ、ソウルフルな女性ボーカル、ストリングスのサンプリングが乗ってくる。
聴いていると自然に体が揺れる、親しみやすく高揚感のあるダンスミュージックだ。
Disclosure、Daft Punk、Fred again..、Peggy Gou——このあたりが現代ハウスの代表格。
Calvin Harrisの初期作品もハウスだ。
「何から聴けばいいかわからない」という人は、まずハウスから入るのがおすすめ。
耳に馴染みやすく、頭で考えずに楽しめる。
テクノ:デトロイトの工場から生まれた機械的な美
発祥:1980年代、アメリカ・デトロイト。
BPM:120〜135前後。
特徴:自動車産業で栄え、衰退したデトロイトの工場の鉄の音が原点。
ハウスが「人間的」なら、テクノは「機械的」。
生楽器の温もりではなく、シンセサイザーの合成音、金属的なノイズ、重厚なベース。
そしてひたすら反復するリズム。
感情を煽るメロディはほぼなく、音の質感そのものを味わう音楽だ。
初めて聴く人は「地味だ」と感じるかもしれない。
でも深夜の爆音で聴くと世界が変わる。
細かなハイハットの揺らぎ、徐々に変化していくシンセパッド、予期せぬブレイク——反復の中に広がる微細な変化が、脳をトランス状態に誘う。
Jeff Mills、Richie Hawtin、Chris Liebing、そして近年ではDeborah de LucaやCharlotte de Witteが現場を牽引している。
日本ならDJ NOBU、KEN ISHIIあたりが世界的な評価を得ているテクノの巨匠だ。
派生ジャンル1:トランス——長いビルドアップと感情の解放
BPM:125〜150前後。
テクノから派生したジャンル。名前の通り「トランス状態」に誘うことが目的で、長いビルドアップ(盛り上がり)と劇的なドロップ(落ちる瞬間)が最大の特徴だ。
フロアで両手を上げて、涙を流しながら踊る人がいるのはたいていトランスの現場。
シンセが徐々に高まっていき、キックが一瞬止まり、そこから爆発するように全員が手を上げる——その瞬間の一体感はエレクトロニックの中でも別格。
Armin van Buuren、Above & Beyondが世界的な代表格。
日本国内でもトランス専門のパーティが各地で定期開催されている。
「盛り上がりたい!」という目的がハッキリしている日は、トランスを選ぶ。
派生ジャンル2:ドラムンベース——BPM170の高速地帯
BPM:160〜180前後。
発祥:1990年代、イギリス。
エレクトロニックの中でも特にスピード感が際立つジャンル。
16分音符のブレイクビーツ(複雑に刻まれたドラムパターン)の上を、深いベースラインが走り抜ける。
最初に聴くと「速すぎてついていけない」と感じるが、慣れると病みつきになる独特のグルーヴがある。
Sub Focus、Netsky、Pendulumなどが代表格。
近年はFred again..のライブパフォーマンスにもドラムンベース的な要素が取り入れられていて、リスナー層が急速に拡大している。
派生ジャンル3:ダブステップ——重低音の破壊力
BPM:140前後(ハーフテンポで70と捉えることも)。
発祥:2000年代初頭、イギリス・ロンドン南部。
最大の特徴は「ウォブルベース」と呼ばれる、波打つように唸る重低音。
スピーカーの前で聴くと内臓が揺れる感覚を味わえる。
Skrillexが2010年前後に世界的ヒットを飛ばしたのもダブステップ。
当時は「新しい音の発明」として衝撃を与えた。
現在は原点回帰の傾向が強く、Ekoplekzや若手プロデューサーたちがロンドンのサウンドを現代的に再構築している。
そして「EDM」——商業的な総称として
BPM:120〜130がメイン。
2000年代後半以降、アメリカで爆発的に使われるようになった言葉が「EDM」。Electronic Dance Musicの略だ。
注意してほしいのは、EDMは特定のジャンル名ではないこと。
テクノもハウスもトランスも、全部ひっくるめてクラブで踊れる電子音楽の商業的な総称として使われる。
Tomorrowlandのような巨大フェスでかかる大衆的で派手なダンスミュージックを指して「EDM」と呼ぶことが多い。
David Guetta、Calvin Harris、Avicii、Martin Garrixあたりが「EDM」の代表的なアーティスト。
メロディックでポップ寄り、ドロップで確実に盛り上がる構造が特徴だ。
「踊るのが目的」ならこのエリアから入るのが一番近道。
自宅で楽しむためのエレクトロニック

ここまでフロアでの楽しみ方を中心に書いてきたけど、エレクトロニックミュージックは自宅でこそ真価を発揮するジャンルでもある。
特におすすめしたいのがアンビエント・テクノとディープハウスだ。
アンビエント・テクノは、Brian Enoを源流に持つ「聴くためのテクノ」。
ビートは控えめ、シンセパッドの広がりと空間の質感を味わう音楽。
作業中のBGMや、眠る前の時間に最適。Boards of Canada、Aphex Twin、Nils Frahmあたりが入口として優秀。
ディープハウスは、ハウスの中でもより内省的でゆったりとしたサブジャンル。
深夜のドライブや、雨の日のカフェで流したい音。
Nicolas Jaar、DJ Koze、Maribouu Stateなどが代表的だ。
エレクトロニック入門のための5曲
ジャンルを頭で理解したら、あとは聴くだけ。
最初の5曲を提案する。
① Daft Punk「One More Time」(2000)—— フレンチハウスの金字塔。これが合うなら、ハウスから深掘りする価値あり。
② Underworld「Born Slippy (Nuxx)」(1995)—— 映画『トレインスポッティング』のラストで世界的に知られた曲。プログレッシブハウスの名作。
③ Fred again.. & Skrillex & Four Tet「Baby again..」(2023)—— 現代のエレクトロニックを一曲で体感できる。3ジャンルが融合する今の音。
④ Peggy Gou「(It Goes Like) Nanana」(2023)—— 2020年代を代表する韓国人DJ。ハウスの気持ちよさをポップに届けた一曲。
⑤ Jeff Mills「The Bells」(1997)—— テクノの古典。これが「良さがわからない」なら、テクノは無理せず別ジャンルへ。「良い」と思えたら、あなたはテクノの扉を開いた。
一度はクラブに行ってみてほしい
最後に、少しだけ現場の話をさせてほしい。
エレクトロニックミュージックは、本来フロアで体験するために作られた音楽だ。
低音の物理的な振動、周りの人々の熱気、DJが読み上げる空気。
イヤホンでは絶対に再現できない何かがある。
ハードルが高いと思うなら、まずは週末の早い時間に開かれる小さなパーティから始めるといい。
クラブより小規模なラウンジやバーでのDJイベントなら、深夜まで粘る必要もない。
TimeOut TokyoやRA(Resident Advisor)で東京のイベント情報は簡単に探せる。
一度フロアに立ってみると、家で聴いていた曲が全く違う音楽として聴こえてくる。
そのとき初めて、エレクトロニックミュージックの本当の入口に立つことになる。
さあ、今夜はヘッドホンで練習だ。金曜の夜に会いましょう。