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Fontaines D.C.はなぜ「今のUKロック」を代表する存在になったのか

YUM

2026.04.17 Update

この記事でわかること

  • 01.ダブリン出身のポストパンクバンドが4枚目で見せた劇的な進化
  • 02.『Romance』がグラミー2部門ノミネート、Rolling Stone UK年間最優秀アルバム
  • 03.ポストパンクの枠を超えたサウンドが示す「2020年代のロック」の現在地

Fontaines D.C.を語るのに長い前置きはいらない。
今、世界で最も重要なロックバンドの一つ。それだけで十分だ。

ダブリン出身。5人組。
2019年のデビューアルバム『Dogrel』でシーンを震撼させ、わずか5年で4枚のアルバムを叩き出した。
4作目の『Romance』(2024年)はグラミー賞2部門にノミネートされ、Rolling Stone UKの年間最優秀アルバム賞を受賞。
UKアルバムチャートでは前作『Skinty Fia』の初週売上の倍以上を記録した。

ポストパンクというジャンルで括られることが多いが、もうそのラベルは窮屈になっている。
『Romance』を聴けばわかる。
このバンドはとっくにポストパンクの外に出た。

ダブリンの音楽学校から始まった5年間

Fontaines D.C.はBIMM Dublinという音楽学校で出会った5人——ボーカルのGrian Chatten、ギターのCarlos O’ConnellとConor Curley、ベースのConor Deegan、ドラムのTom Coll——で結成された。

2019年のデビューアルバム『Dogrel』は、ダブリンの街角の匂いがそのまま音になったような作品だった。
アイルランド英語の訛りを隠さない語りかけるようなボーカル、ポストパンクの衝動、詩的なリリシズム。
Rough Tradeが年間ベストに選び、マーキュリー賞にもノミネートされた。

2作目『A Hero’s Death』(2020年)はグラミーの最優秀ロックアルバム部門にノミネート。
3作目『Skinty Fia』(2022年)でUK・アイルランド両チャート1位を獲得し、ブリット・アワードでInternational Group of the Yearに選ばれた。
Arctic Monkeysの大型ツアーでオープニングアクトを務めたのもこの時期だ。

デビューから3作目まで、上昇曲線は一貫していた。だが彼らが本当に化けたのは、4枚目だ。

『Romance』——ポストパンクの棺桶を蹴り開けた37分間

2024年8月リリースの『Romance』は、前3作とは明らかに違う。

プロデューサーにJames Ford(Arctic Monkeys、Depeche Mode)を起用し、レーベルもPartisanからXL Recordingsへ移籍。
この2つの変化が、サウンドを根本から変えた。

グランジの重さ、シューゲイザーの浮遊感、ヒップホップのビート、エレクトロニクスのテクスチャ——11曲37分の中に、The Cure、Nirvana、Placebo、さらにはShygirlやSega Bodegaの影響まで溶け込んでいる。
ポストパンクの「型」にはまることを完全に拒否した、彼ら史上最も野心的なアルバム。

Grian Chattenはインタビューでこう語っている。
このアルバムでは「アイルランドの音がする」ことから意図的に離れたと。
ダブリンの街角から、もっと広い世界へ。その決断が正しかったことは、結果が証明した。

The Guardianのアレクシス・ペトリディスは5つ星満点のレビューで、『Romance』を「Fontaines D.C.史上最もアプローチしやすいアルバムでありながら、バンドのポテンシーは一切犠牲にされていない」と評した。
実際、「Desire」のようなアンセミックな楽曲はスタジアム規模のシンガロングを誘発する力を持っている。攻撃性とキャッチーさの両立——それがこのアルバムの核心だ。

「Starburster」が変えた空気

このアルバムの評価を決定づけたのは、リード・シングル「Starburster」だ。

Grian Chattenがパニック発作を模したかのような荒い呼吸でラップする冒頭から、曲はカオスへと転げ落ちていく。
ディストーテッドなギター、ビートのズレ、電子音のノイズ。
4分間の衝動。
「Song of 2024」の一つに数えられ、グラミーのBest Alternative Music Performanceにノミネートされた。

重要なのは、この曲が「ポストパンク」ではないということだ。
ヒップホップのフロウ、エレクトロニックのビート構造、パンクの衝動——ジャンルの壁を無視して成立している。
「Fontaines D.C.はポストパンクバンドか?」という問い自体がもう成り立たない。
彼らは「Fontaines D.C.」というジャンルだ。

Arctic Monkeysの次を担う存在

Fontaines D.C.の立ち位置は、2000年代中盤のArctic Monkeysと重なる。

インディーシーンから出発し、アルバムごとにサウンドを変貌させ、批評家の期待を裏切りながら結果的にその上をいく。
しかもライブが圧倒的に強い。彼らのライブを一度でも見ればわかるが、Grianのステージ上の存在感はイアン・カーティスとリアム・ギャラガーを足して割ったような磁力がある。

2024年には映画『Bird』(アンドレア・アーノルド監督)に楽曲が起用され、「Bug」のMVにはバリー・コーガンが出演。
ギタリストのCarlos O’Connellは同作で俳優デビューも果たしている。
音楽の外にも活動が広がり始めた。

2025年のグラミー授賞式には残念ながら受賞には至らなかったが、ノミネートという事実だけで十分な勲章だ。
アイルランドのバンドがロックアルバム部門のグラミーにノミネートされること自体、歴史的に珍しい。

ライブツアーはますます規模を拡大している。
2024年のブルックリン公演では、Grianが「このアルバムとクラウドの反応のおかげで、久しぶりに新鮮な感覚がある」と語った。
ツアーバスの中からLemsipを啜りながらのインタビューという状況も含めて、彼ららしい。飾らない。
だが、ステージに立てば別人になる。
その落差が、このバンドのもう一つの魅力だ。

初めて聴くなら、この5曲

① Starburster(2024 / Romance)—— 彼らの現在地を一曲で理解できる。4分間の嵐。

② Big Shot(2019 / Dogrel)—— デビュー作からのキラーチューン。ダブリンの酒場で殴り合うような初期衝動。

③ A Hero’s Death(2020)—— タイトル曲。繰り返しの呪文のようなフレーズが脳に刻まれる。

④ Favourite(2024 / Romance)—— 『Romance』で最もメロディアスな1曲。Grianの歌声の美しさに気づく。

⑤ I Love You(2022 / Skinty Fia)—— アイルランド語のタイトルを持つ、静かで深い愛の歌。異国の地で母国を想う切実さ。

2020年代のロックはここにある

「ロックは死んだ」と言う人がいる。
ストリーミング時代にギターバンドは時代遅れだと。

Fontaines D.C.はその議論に、作品で答えを出し続けている。
ポストパンクの枠を壊し、グランジとエレクトロニクスを飲み込み、ヒップホップのリズムを纏い、それでもギターバンドとしての核を失わない。
「ロックの次」を探す旅は、まだ終わっていない。

もしあなたがOasisやArctic Monkeysを聴いて育ったなら、Fontaines D.C.は「今聴くべきバンド」としてこれ以上ない選択肢だ。
そうでなくても構わない。
彼らの音楽は、ロックの歴史を知らなくても響く。

『Romance』を再生して、まず37分間。
黙って聴いてみてほしい。

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